DX・システム
タレントマネジメントシステムは、導入したいが手が出ない、という声の多い領域です。従業員情報、組織図、人事評価をまとめて扱えるのは魅力ですが、価格帯としては数百万円規模のものも多く、従業員が数百名いる規模でないと投資判断が難しいのが実情です。
一方で、生成AIでの開発が現実的になったことで「契約せずに自社で作る」という選択肢が出てきました。この記事では、実際にClaudeで自社専用のタレントマネジメントツールを作ってみた記録と、自作と市販SaaSをどう使い分けるべきかの判断基準をまとめます。
30秒で分かる結論
設計から実装まで、かかったのは3〜4時間ほど。従業員管理・組織図・人事評価の3機能が動く状態まで到達した
Claudeに「既存サービスの機能を調べたうえで設計して」と頼むと、リサーチから設計案まで出てくる
組織図は従業員データから自動生成される。部署を追加すれば図も追従する
評価コメントはAIが下書きする。ゼロから書く負担が減る
分かれ目はセキュリティ要件と扱う情報の機微さ。給与や詳細な個人情報を扱うなら市販ツール、そうでないなら自作が現実的
なぜ「自作」が選択肢になったのか
これまで業務システムの自作が現実的でなかったのは、要件定義と実装の両方に専門人材が必要だったからです。既存サービスにどんな機能があるかを調べ、自社に必要な範囲を切り出し、データ構造を決めて実装する。この一連の工程が、外注すれば数百万円、内製しても数か月かかる仕事でした。
生成AIが変えたのは、この調査と設計の部分です。「こういうサービスを作りたい」と伝えるだけで、既存サービスの機能を調べ、設計案を出すところまでを数十分で通せるようになりました。実装もそのまま続けて依頼できます。
結果として、「本当に必要な機能だけを持った、自社専用の小さなツール」を作るコストが、SaaSの年間契約料を下回るケースが出てきています。
Claudeに何をどう依頼したか
最初の依頼は、実装ではなく設計です。いきなり「作って」と言うと、自社に不要な機能まで盛り込まれた大きなものが出てきます。既存サービスを調べさせたうえで、必要な範囲を先に絞るほうが結果が安定します。
タレントマネジメントシステムを作りたいです。
HRBrainやカオナビのようなタレントマネジメントシステムについて、
提供されている機能や作り方を調べたうえで、
同様のサービスを開発するための設計を考えてください。
・対象は中小企業(従業員数十名規模)
・扱う情報は従業員の基本情報、部署、評価まで
・給与などの機微情報は対象外
サービス名は「ドヤHR」でお願いします。この依頼で、複数のリサーチが並行して走り、設計案が返ってきます。今回は特殊な読み込みが挟まったこともあり、設計が出るまでに10分ほどかかりました。
ポイントは、扱わない情報を明示しているところです。給与などを対象外と書いておくと、設計の段階からその前提で組まれます。あとから外すより、最初に線を引くほうが確実です。
出来上がったもの
返ってきた概要は、従業員情報・組織図・人事評価を1つの画面でまとめて管理する、中小企業向けのタレントマネジメントツールでした。Excelでバラバラだった人事情報を1か所に集約し、評価コメントはAIが下書きする、という構成です。
設計上は次の機能が挙がりました。
顔写真中心の従業員データベース
組織図の自動作成
MBO対応の人事評価
ダッシュボード
権限管理
このうち今回実装したのは、従業員管理・組織図・評価の3つです。給与など他の項目も追加できますが、まず動くところまで作って確かめる、という進め方にしています。
従業員管理
「従業員を追加」から、写真と基本情報を入力して登録します。登録後は、社員番号、メールアドレス、部署、役職、雇用形態を一覧で管理できます。Excelの管理表をそのまま置き換えられる粒度です。
組織図の自動生成
従業員データの部署情報から、組織図が自動で組み上がります。開発部が3名、営業部が1名、といった構成がそのまま図になり、部署や人を増やすと図も追従します。組織図を別途メンテナンスする必要がないのが、Excel管理との一番の違いです。
人事評価
従業員ごとに評価を入力できます。評価コメントはAIが下書きするため、書き出しの負担が減ります。評価の観点は仮置きで作ってあり、自社の評価制度に合わせて項目を差し替える前提です。
自作と市販SaaS、どちらを選ぶか
ここが実務上いちばん重要な判断です。作れることと、作るべきことは別です。
市販ツールを選ぶべきケース
従業員数が多く、権限管理を厳密に分ける必要がある
給与や評価履歴など、機微な個人情報を本格的に扱う
セキュリティ要件が社内規程や取引先要求で定められている
監査対応やログ保全が求められる
この条件に当てはまるなら、市販のタレントマネジメントツールを使うか、しっかり要件を固めてスクラッチ開発するのが安全です。情報の重さに対して、自作の管理体制が釣り合いません。
自作が現実的なケース
従業員数がそれほど多くなく、契約金額に対して機能が過剰になる
業務委託メンバーの管理など、限定的な範囲を整理したい
給与や詳細な個人情報までは入力しない運用にできる
まず現状を可視化したいだけで、フル機能は要らない
「タレントマネジメントツールを契約するのは金銭的に厳しいが、社員の状況は整理したい」という段階なら、自作は十分に選択肢に入ります。扱う情報を意図的に絞ることが、自作を成立させる条件です。
拡張の余地
今回作った3機能に加えて、次のような拡張が考えられます。
マネージャーごとの1on1記録
社員アンケートの集計
評価の推移と満足度の突き合わせ
これらを積み上げていくと、離職の予兆に気づくための材料が社内に溜まっていきます。タレントマネジメントツールを導入する本来の目的はここにあるので、機能数より「どのデータを継続して溜めるか」を先に決めるほうが効果的です。
三森の実務メモ:この検証で腑に落ちたのは、AIが安くしたのは実装ではなく調査と設計のほうだ、ということでした。既存サービスの機能を洗い出して自社に必要な範囲を切り出す作業は、本来いちばん人手と時間を食うところです。そこが数十分で通るようになったので、「まず作って試す」が現実的になりました。一方で、何を扱わないかを決めるのは今も人の仕事です。今回も、給与を対象外にすると最初に書いたことが、結果的にいちばん効いた判断でした。
動画で学ぶ
Claudeへの依頼から設計の生成、完成したツールの画面までを、実際の操作つきで解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q. プログラミングの知識は必要ですか?
コードを書く知識は不要ですが、動かす環境を用意する作業は残ります。まったく触れたことがない状態から1人で完結させるより、社内にシステムに明るい人が1人いる状態で進めるほうが現実的です。
Q. 従業員の個人情報を入れて問題ありませんか?
扱う情報の範囲と、保管場所・アクセス権限を先に決めてください。個人情報保護法上の安全管理措置は自作でも同じように求められます。判断がつかない場合は、機微な情報を入れない設計にするのが安全です。
Q. 作ったツールは誰が保守するのですか?
ここが自作の最大の論点です。作った本人しか直せない状態になると、その人が離れたときに動かなくなります。設計と依頼文を残しておくこと、扱う範囲を小さく保つことが、そのまま保守性になります。
Q. 既存のExcel管理から移行できますか?
できます。むしろExcelで管理できている項目がはっきりしているほど、設計が早く固まります。まず現在の管理表の列を書き出して、それをそのまま依頼文に渡すのが近道です。
Q. どのくらいの規模まで耐えられますか?
数十名規模の情報整理であれば十分に機能します。数百名を超え、権限の細分化や監査対応が必要になる段階では、市販ツールへの移行を検討してください。
まとめ:作れるかどうかより、何を扱わないかを決める
タレントマネジメントシステムは、3〜4時間で従業員管理・組織図・評価が動くところまで作れました。組織図が自動生成され、評価コメントの下書きが出てくる状態は、Excel管理と比べれば十分な前進です。
ただし判断の軸は「作れるか」ではありません。どの情報を扱い、どの情報を扱わないかを先に決められるかです。そこさえ線引きできれば、SaaSを契約する前に一度自作を試す価値は十分にあります。契約してから機能を持て余すより、必要な機能を確かめてから選ぶほうが、結果的に安く済みます。


