DX・システム
SFAを導入したものの、入力されずに形骸化した。あるいは、機能が多すぎて定着しなかった。中小企業の営業現場では、よく聞く話です。
この記事では、Salesforce風のSFAをClaudeで自作した記録をまとめます。結論から言うと、作れました。ただし成功した理由は実装力ではなく、機能を4つに絞ったことにあります。SFAの自作を考えている方には、そこがいちばん参考になるはずです。
この記事の位置づけ
本記事は、既製のSFAを比較する記事ではなく、生成AIでSFAを自作した実例の記録です。後半では、自作・ノーコード・既製のAI搭載SFAのどれを選ぶかの判断基準と、AIに商談情報を渡すときの注意点も補足しています。顧客管理の基本から整理したい方はCRMとは?機能・導入メリット・活用法を、営業リストを自作した記録は営業リスト作成ツールはAIで自作できるかをあわせてご覧ください。
30秒で分かる結論
実装したのはダッシュボード・商談管理・取引先・タスクの4機能だけ
要件は「Salesforceの営業を管理する部分だけを、中小企業向けにシンプルに、AI標準搭載で」に集約された
想定は5〜100人規模の営業チーム。「Salesforceは重すぎる」という層
商談ごとに次のアクションをAIが提案し、そのままタスク化できる。ここが既存SFAとの違い
逆に言えば、レポート機能や権限設計、外部連携は最初から作っていない
SFAが定着しない理由は、機能が多いこと
SFAが使われなくなる原因は、たいてい入力の重さです。項目が多く、どこに何を書けばいいのか分からず、営業担当が入力をやめる。入力されないから経営側も見なくなる、という順で形骸化します。
既存のSFAは大企業の運用に耐えるよう作られているため、機能が豊富です。それ自体は正しい設計ですが、5〜30人の営業チームにはオーバースペックになりがちです。使わない機能があること自体がコストになります。
そこで今回は、最初から「作らない機能」を決めて進めました。
要件をAIに定義させる
依頼はシンプルです。既存サービスを名指しして、要件そのものを定義させます。
ドヤ営業管理というサービスを作りたいです。
SalesforceのようなSFA(営業管理ツール)を、
便利で分かりやすく使いやすく作るための要件を設定してください。返ってきた要件を一言でまとめると、「Salesforceの営業を管理する部分だけを、中小企業向けにシンプルに、安く、AI標準搭載で作る営業ツール」でした。対象は5〜100人の営業チーム。管理する対象は取引先・担当者・リード・商談に絞られています。
ここで大事なのは、AIが勝手に絞ったのではなく、「中小企業向け」という一語が効いていることです。誰のためのツールかを最初に書くと、機能の取捨選択がそこに引きずられます。
自社で試すときの要件定義テンプレート
上の依頼文に、誰のためのツールか・作らないもの・管理する対象を足すと、AIが返す要件が自社の営業に寄ります。以下は編集部が作成したテンプレートで、今回の開発で実際に入力した文面とは別のものです。
[ツール名]という営業管理ツール(SFA)を作りたいです。
便利で分かりやすく、入力が続く設計にするための要件を定義してください。
# 誰のためのツールか
・利用者:[例:営業担当8名と営業部長1名]
・今の管理方法:[例:スプレッドシートと個人のメモ]
・一番困っていること:[例:商談の進み具合が部長から見えない]
# 管理する対象
・[例:取引先、担当者、商談、タスク]
# 最初は作らないもの
・[例:細かい権限設計、外部連携、承認フロー、データ移行]
# 出力してほしいもの
1. 機能の一覧(最初に作るもの/後回しにするもの)
2. 各画面の入力項目(必須と任意を分ける)
3. 商談のステータス一覧
4. 顧客情報の扱いで事前に決めるべきこと実装した4つの機能
ダッシュボード
売上のサマリーを表示します。数字を見に行く場所が1つあるだけで、状況把握の起点になります。凝ったグラフは入れていません。
商談管理(パイプライン)
商談を追加し、進捗に合わせてカンバンで移動させます。アプローチから受注まで、カードをドラッグして状態を変えるだけです。SFAの中核はここだけと割り切りました。
取引先
新規の取引先を登録すると、そのままリストになります。担当者情報もここに紐づきます。
タスク
やることを追加し、チェックボックスで消していくだけの機能です。複雑な入力を求めないことを優先しました。営業以外の作業も混ざる現実に合わせています。
既存SFAとの違いは「AI次アクション」
今回いちばん使えると感じたのが、この機能です。商談の画面で「AI次アクション」を押すと、次に何をすべきかをAIが考えて、タスク候補として提示します。
たとえば「担当者にメールを送る」「現状確認のアポイントを獲得する必要があります」といった候補が並び、チェックを入れたものだけがタスクとして追加されます。追加されたタスクは、チェックすると消えていきます。
既存のSFAは、入力された情報を記録として貯めることが中心でした。そこにAIが標準で入ると、貯めた情報から次の行動を出す側に寄ります。入力が「記録のため」ではなく「次の一手を得るため」に変わるので、入力の動機そのものが変わります。SFAが形骸化する問題への回答として、これはかなり現実的だと感じました。
既製のAI搭載SFAにある機能と、今回の自作の違い
「AI搭載SFA」として販売されている製品では、商談の文字起こし・議事録作成、商談内容の要約、活動履歴の自動登録、メールや提案書の作成支援、売上予測、次回アクション候補の提示といった機能が紹介されています(参考:SFA JOURNAL「AI搭載SFAとは?」)。
本記事で紹介している自作SFAのAI機能は、このうち「次回アクション候補の提示」にあたるAI次アクションです。既製品のAI機能をすべて自作で揃えようとすると、機能を4つに絞った意味が薄れます。自作する場合は、自社の営業がいちばん困っている1点にAIを使うところから始めるのが現実的です。
AI次アクションを自作するときの顧客情報の扱い
AI次アクションは、商談の内容をAIに渡して次の一手を考えさせる機能です。つまり、取引先名や商談の状況が外部のAIサービスに送られる設計になります。自作する場合は、この点を最初に決めておく必要があります。
株式会社スリスタの一次調査では、業務でAIを使った際の事故・ヒヤリハット経験者51名のうち、最多事案は「機密情報・個人情報をAIに入力してしまった」37.3%(19/51)で、「社内情報・取引先情報を含むデータを外部AIサービスにアップロードした」も19.6%(10名)でした。また、AIガイドラインの整備率は規模別では1~10名・11~50名は整備率0.0%でした。小規模な会社でSFAを自作する場合、社内ルールが無いまま顧客情報をAIに渡す設計になってしまう恐れがあります。
出典:株式会社スリスタ『企業の生成AI活用実態調査2026』(n=400)。詳細は業務AI事故・ヒヤリハット実態2026と企業のAIガイドライン整備実態2026で公開しています。
AIに渡す項目を決める:商談ステータス・次回予定・課題メモなど、提案に必要な項目だけを渡し、個人の連絡先は渡さない設計にする
利用するAIサービスの規約を確認する:入力データの保存期間や学習への利用の有無を、契約プランごとに確認する
取引先との契約を確認する:秘密保持契約で外部サービスへの提供が制限されていないかを確認する
社内ルールを1枚にまとめる:AIに入力してよい情報・いけない情報、困ったときの相談先を決めて営業チームに共有する(AIガイドラインのテンプレートも参考になります)
AIの提案をそのまま実行しない:提案は候補として表示し、担当者がチェックしたものだけをタスクにする(今回の実装もこの形です)
作らなかったもの
正直に書くと、次のものは作っていません。
細かい権限設計とアクセス制御
複雑なレポートとダッシュボードのカスタマイズ
メールやカレンダーとの外部連携
承認フローや稟議
大量データのインポートと移行
これらが必要な規模であれば、素直に既存のSFAを使うべきです。特に既存データの移行は自作の弱点で、いま別のツールに履歴が溜まっているなら、その移行コストだけで自作の利点が消えます。
逆に、まだExcelやスプレッドシートで管理していて、これから仕組みを作る段階なら、自作は十分に選択肢になります。
三森の実務メモ:作ってみて分かったのは、Salesforceがすごいのは機能の多さではなく、あらゆる業種と規模に耐える設計になっていることだという点でした。自作でそこを目指すと必ず負けます。勝てるとすれば、自社の営業プロセス1つに合わせて割り切る場合だけです。今回4機能に絞れたのは、要件定義の段階で「中小企業向け」と書いたからでした。誰のためかを先に決めると、作らない判断が自動的についてきます。
自作・ノーコード・既製SFAの選び分け
SFAを用意する方法は、生成AIでの自作、kintoneのようなノーコードツールでの構築、既製のSFA(AI搭載製品を含む)の導入の3つに分けられます。次の質問に答えると、どれから検討すべきかが絞れます。
すでに別のSFAやCRMに商談履歴が溜まっているか:溜まっているなら、移行コストを含めて既製SFAの継続・乗り換えから検討する
営業担当の人数と、権限を分ける必要があるか:部署やチームごとに見せる範囲を分ける必要があるなら、権限設計を持つ既製SFAが向く
メール・カレンダー・会計など外部サービスとの連携が必須か:必須なら、連携機能を持つ既製SFAかノーコードツールが近道になる
社内にコードの動作確認や修正を担える人がいるか:いない場合、自作したツールの保守が止まるリスクがある
まだスプレッドシート管理で、営業プロセスを自社の形に合わせたいか:当てはまるなら、本記事のように機能を絞った自作が選択肢になる
自作を選ぶ場合も、最初から全機能を作る必要はありません。今回の4機能のように、毎日使う画面だけを作り、足りないものは現場の要望が出てから追加するほうが定着しやすくなります。
動画で学ぶ
Claudeへの要件定義から、完成した営業管理ツールの画面と「AI次アクション」の動きまでを、操作つきで解説しています。
【AI開発】Salesforceは本当に必要?自社専用SFAをClaudeで作ってみた
動画では、顧客情報・商談・営業パイプライン・活動履歴・タスクの管理画面、ダッシュボードや案件詳細の操作に加えて、既存の営業管理SaaSを契約する場合との違いとして、仕様変更のしやすさ、セキュリティ、外部サービスとの連携といった導入時に考えるべき点も取り上げています。開発方法をまとめた資料は、公式LINEを友だち追加して「ドヤ営業管理」と送ると受け取れます。完成したツールはドヤ営業管理から試せます。
同じシリーズ:営業リストと商談準備もAIで自作
SFAに登録する取引先の候補を集める工程は、営業リスト作成ツールを自作した動画で紹介しています。業種や地域の条件で企業を検索し、CSVで出力するまでの操作を見られます。記事版は営業リスト作成ツールはAIで自作できるかです。
商談の前に相手企業を調べる作業をツール化した動画もあります。SFAの商談管理と組み合わせる前段の工程として参考になります。記事版は商談準備をAIで効率化|「ドヤ商談準備」開発記です。
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ドヤ営業管
営業案件・顧客情報・進捗をまとめて管理し、営業活動の見える化を支援します。
よくある質問(FAQ)
Q. 既存のSFAから乗り換えられますか?
データ移行が最大の壁です。過去の商談履歴や活動記録が既存ツールに溜まっているなら、その移行コストを含めて判断してください。これから仕組みを作る段階のほうが、自作は向いています。
Q. 営業チームに入力してもらえますか?
入力項目を減らすことが定着の条件です。今回4機能に絞ったのもそのためです。入力が「記録のため」ではなく「次のアクションが出てくるため」になると、続きやすくなります。
Q. 顧客情報を自社ツールで扱って問題ありませんか?
取引先や担当者の情報は個人情報を含みます。保管場所とアクセス権限を先に決め、社内規程に沿った運用にしてください。判断がつかない場合は、扱う項目を絞る設計にするのが安全です。
Q. 何人規模まで使えますか?
想定は5〜100人の営業チームです。権限を細かく分ける必要が出てきたら、既存SFAへの移行を検討する段階と考えてください。
Q. 作った後の機能追加はできますか?
できます。むしろ小さく作って、現場の要望が出てから足していくほうが、使われるものになります。最初から全部作ろうとしないことが、自作を成立させるコツです。
Q. AI搭載SFAを買うのと自作するのは、どちらがよいですか?
すでに他のツールに履歴が溜まっている、権限や外部連携が必須、社内に保守できる人がいない、のいずれかに当てはまるなら既製のSFAから検討してください。スプレッドシート管理からこれから仕組みを作る段階で、使うAI機能を1つに絞れるなら、自作も選択肢になります。本記事の「自作・ノーコード・既製SFAの選び分け」の質問で確認できます。
Q. AI次アクションのために、商談の内容をAIに送っても大丈夫ですか?
送る項目、利用するAIサービスの規約、取引先との秘密保持契約の3点を確認してから決めてください。提案に必要な項目だけを渡し、個人の連絡先は渡さない設計にすると、扱う情報を減らせます。社内にAIの利用ルールが無い場合は、先にルールを1枚にまとめることをおすすめします。
まとめ:勝てるのは「自社のやり方に合わせる」ところだけ
SFAは自作できました。ただし既存サービスと同じものを目指したからではなく、営業の商談管理という一点に絞ったからです。ダッシュボード、商談、取引先、タスクの4つ。それ以上は作っていません。
AIで業務システムを作るときの判断軸は、機能の多さではありません。誰のためのツールかを一語で決められるかです。「中小企業向け」と最初に書いたことで、作らない機能が自動的に決まりました。既存SFAが重いと感じているなら、まず自社の営業プロセスを4つに絞れるか考えてみてください。



